契約者変更ってなに?
保険を契約した人のことを保険契約者といいます。契約者は 保険料 を支払う義務を負い、契約内容を変更したり、解約したりする権限をもっています。
今回のテーマである契約者変更とは、この契約者を別の人に切り替える手続きのことで、原則として、保険契約者はいつでも契約者を変更できます。
では、なぜ「保険の契約者変更に注意」が必要なのでしょうか?
その大きな理由は、2018年1月から「契約者変更をすると変更したことが税務署に報告される」ようになったからです。
保険にかかる税金
100万円を超えて 保険金 や解約返戻金(以下「保険金等」といいます)が支払われると、保険会社から税務署に「支払調書」という書類が提出されます。この支払調書には過去に支払った保険料なども記載されているので、その保険でいくら利益が出たのかが分かるようになっています。
保険金が財産というのは分かりやすいですし、保険金を受け取った人に税金がかかるのも理解できます。しかし、契約者変更を税務者が把握しなければならない理由は何でしょうか?
実は、保険で利益が出たときにかかる税金は「所得税・住民税」「贈与税」「相続税」の3パターンがあり、保険料を払った人(通常は契約者)と保険金等を受け取った人の関係でどのパターンになるかが決まります(※相続税は死亡保険金に限ります)。
契約者 | 被保険者 | 保険金等受取人 | 税金 |
---|---|---|---|
Aさん | Bさん | Aさん | 所得税・住民税 |
Aさん | Bさん | Cさん | 贈与税 |
Aさん | Aさん | Cさん | 相続税 |
このとき3パターンのどれでも税負担が同じならいいのですが、どのパターンになるかで税負担にかなり差が出てしまうのです。
特に贈与税はもっとも負担が重い税金といわれており(実際はケース・バイ・ケース)、例えば、これまで支払った保険料が200万円の保険契約で 保険事故 が発生して、1,000万円の保険金を受け取ったときの税金を3つのパターンで試算すると次のようになります。なお、贈与税が少し安くなるため子は20歳以上とします。
所得税・住民税 | 697,500円 | 他の所得と所得控除はないものとします。 |
贈与税 | 1,770,000円 | 他の贈与はないものとします。 |
相続税 | 0円 | 他の相続財産はないものとします。 |
このくらい税負担に差があると当然「贈与税は嫌だ」となるわけですが、運悪く贈与税のパターンで父が保険に加入していたとしましょう。
これを知った保険金等受取人である子は考えます。「そうだ!契約者を変更するように父に言って、贈与税がかかないようにしよう」と。
もちろん、契約者を変えて税負担に差が出るのは不公平なので税務上は認められていません。契約者の変更後も父が保険料を負担した部分は「贈与税」がかかるのです。
保険料を負担した部分とは何でしょうか?具体例で見てみましょう。
例えば、父が保険料を200万円支払ったところで契約者を子に変更しました。その後、子が保険料を50万円支払ったところで被保険者である母が死亡して死亡保険金が子に支払われたとします。そうすると、保険金のうち5分の4が贈与税、5分の1が所得税・住民税の課税対象になります。
これまでは把握が難しかった
ところが、2017年までは子に支払われた保険金額や既に支払われた保険料の総額は「支払調書」という書類で税務署に報告されていましたが、保険料を実際に誰が支払ったのか報告する義務はありませんでした。
このため、保険事故の発生時の支払調書を見る限りでは、変更後の契約者である子が保険料を全額支払っていたように見えるため、保険金の全額が「所得税・住民税」の課税対象として申告されても税務署では間違いに気づかなかったのです。
もちろん、納税者が自主的に贈与税の申告をしたり、税務署が保険会社に問い合わせをして調べたりすれば別ですが、ほとんどのケースで贈与税の課税漏れがあったといわれています。
そこで2018年より、変更前の契約者の指名と過去の契約者変更の回数、現在の契約者が負担した保険料の金額などが支払調書に記載されるようになったのです。
契約者が死亡したときも注意
保険契約者は、保険を解約する権利をもっていますが、同時に解約返戻金を受け取る権利ももっています。つまり解約返戻金を受け取れる保険契約は立派な財産なのですが、この保険契約をタダでもらったら「儲けた」と感じるでしょうか?私だったら儲けたラッキーと思います。
定期預金をタダでもらったようなものです。ただし、保険の契約者が「儲けられる」のは、その保険を解約した場合に限られます。解約する前に保険事故が発生したり、満期を迎えたりした場合は、契約者ではなく保険金受取人が利益を得ることになります。
そのため、預貯金などの金融資産の名義を変更したら、原則として名義変更の時に贈与税がかかることになりますが、保険契約に関しては「誰が利益を得るか確定するまで課税するのを待つ」という取り扱いになっているのです(これを「保険の出口課税」といいます)。
しかし、契約者が死亡した場合は少し話が変わってきます。契約者=被保険者であれば死亡保険金が支払われますので保険契約はそこで終了しますが、契約者≠被保険者の場合は、契約者が死亡した後も契約は継続することになります。そこで次の契約者を決めなければならないため、いわゆる相続の対象になるのです。
この場合も、その保険を解約するまでは次の契約者となった人が儲けたわけではないのですが、相続した保険契約については相続税の課税対象にしなければなりません。そうすると儲けた人が確定するまで待つなんて悠長なことをいってるわけにはいかないのです。
では、誰に対して相続税を課税するのでしょうか?次の契約者でしょうか、それとも保険金受取人として指定されている者でしょうか?
どちらもこの保険で利益を得る可能性はありますが、保険金受取人が利益を得るのは「保険事故が発生することが条件」なので、自分の意思で利益を確定することはできません。それに対して保険契約者は自分の意思で保険を解約して利益を確定する(解約返戻金を受け取る)ことができます。となれば、税金は次の契約者の方に負担してもらうのが妥当ということになるでしょう。嫌なら解約するなり、保険金受取人を自分に変更すればいいのです。そうすれば損しなくすみますから。
このような事情から、保険契約者が死亡した場合には次の契約者に相続税がかかる可能性があるのですが、これまでは税務署が「保険契約者の死亡による契約者変更」を把握することが難しかったため、こちらもほとんど課税されていなかったといわれています。
これに対応するため、2018年から「保険契約者が死亡した場合の契約者変更」は、その変更時に支払調書の提出が必要となりました。
※死亡以外の契約者変更は、保険金等の支払時に提出される支払調書に変更した情報が記載されますが、契約者を変更しただけでは支払調書は提出されません。
なお、この改正は2018年以降の契約者変更が対象になっていますから、過去の契約者変更については支払調書に記載されないと思いますが、今後の契約者変更は税務署もしっかり補足していますので申告漏れ等のないようにご注意ください。
また、このような無駄な課税を避けるためにも、保険の加入時に受け取るときの課税関係をよく確認するようにしましょう。