所得税とは
所得税とは、個人の1年間の儲けに対して課される国の税金(国税)です。所得税法では、この個人の儲けを「所得」といい、個人の所得には所得税の他に地方自治体が課す住民税(地方税)があります。
所得税と住民税の計算の仕組みはほとんど同じですが、微妙に違っているところもあります。この「所得税-超入門編」では、所得税の計算の基礎だけにしぼって解説を進めていきます。
なお、上記の通り所得税は原則として個人の1年間の所得に対して課税されますが、例外的に天引き方式で課税される所得税があります。この天引き方式を「源泉徴収」と呼ぶことから、この天引きによる所得税は「源泉税」とか「源泉所得税」といわれています。
源泉税も所得税の一種には違いありませんが、個人だけでなく 法人 に対しても課されますし、1年間の所得に対して課されるわけでもありません。とにかく、普通の所得税とはまったく考え方が異なっていますので、今回は源泉税はベツモノとして取り扱うことにしたいと思います。
所得税の基本事項3つ
- 計算期間の1年は、1月1日から12月31日までの1年間です。ちょうど暦と一致しているため「暦年単位課税」といわれます。
- 所得を得た個人が、自分で所得と所得税額を計算して国(税務署)に申告しなければなりません。これを確定申告といい、確定申告は翌年2月16日から3月15日までの期間内に行わなければなりません。
- 確定申告した人が納める所得税の期限(納期限)は、確定申告の提出期限である3月15日です。
所得税の計算の仕組み
- 収入を把握します。
- 経費を引いて所得を計算します。
- 所得から所得控除を引いて課税所得を計算します。
- 課税所得に所得税率を掛けて所得税を計算します。
たったの4ステップしかありませんが、所得税計算の基本的な流れはこれですべてです。根幹の部分はとてもシンプルですが、これに枝葉をつけていくとかなり難解で複雑なものに変貌していきます。いきなり枝葉を知ろうとすると混乱しますので、まずはこの基本4ステップをしっかり覚えましょう。
収入を把握する
収入とは
色々なものが考えられますが、生きていて「経済的に得した。ラッキー!」と思うようなことがあれば、それが「収入」なのです。具体的には次のようなものが収入になります。
- 会社員の給料、パートやアルバイトによる収入
- 銀行預金の利子収入
- 家財や衣類、自家用車などの売却収入
- 健康保険や雇用保険等からの給付金による収入
- 生命保険や損害保険の満期保険金、解約返戻金、死亡保険金、入院給付金など
- 自宅購入時の親からの資金援助などの贈与による収入
このような様々な収入を1年分集計するところから所得税の計算はスタートするのです。
収入の分類
しかし、すべての収入に所得税がかかるわけではありません。収入はまず次の4つに分類されます。
- 非課税:所得税はかからない。
- 源泉分離課税:源泉徴収だけで課税処理が終了する。
- 確定申告不要制度の対象:確定申告するか、申告しないか納税者が選べる。
- その他:確定申告の対象になる。
このうち、1と2は確定申告の対象外ですので、どんなに儲かっていても申告する必要はありませんから計算上はゼロと一緒です。3は少し特殊で、最初に所得税が源泉徴収されて、その後確定申告するかどうかは納税者の判断に任されます。申告不要を選べば2と同じ、申告するを選べば4と同じ取り扱いになって先に進むことになります。
今回は超入門なので、それぞれの内容の詳細には触れませんが、計算例として、勤務先の会社を退職して、会社経営(書店)を始めた「葵さん」にご登場頂きましょう。
葵さんの今年の収入は、前勤務先の会社からの給料150万円と退職金800万円、自分で設立した会社からの給料が350万円、銀行預金の利子1万円、上場企業の株を持っていてその株の配当による収入が5万円あります。また、会社を設立する際の資金として、親から100万円の贈与を受けています。
葵さんの収入のうち、親からの贈与100万円は非課税なので所得税はかかりません(贈与税が課される可能性はあります)から所得税計算から外します。銀行預金の利子1万円は、所得税15.315%、住民税5%が天引きされて課税処理が終了する源泉分離課税なので、これも非課税ではありませんが所得税計算からは外れてもらいます。
次に株の配当ですが、上場企業の株式の配当は所得税15.315%、住民税5%が天引きされて「確定申告不要制度の対象」となります。従って、葵さんが確定申告の有無を選べますが、面倒くさいので申告しないことにしました。つまり、配当の5万円も今回は所得税計算からは除外します。
残っているのは給料と退職金です。実は退職金も退職時に一定の書類を勤務先に出せば所得税と住民税が天引きされて、確定申告しなくても済むのですが、今回は説明の都合上、あえて確定申告することにします。
また、葵さんの給与についても、勤務先で 年末調整 することにより確定申告が不要になるのですが、こちらも話の都合上、年末調整しなかったら・・・という前提で解説を進めます。
経費を引いて所得を計算する
これまでに出てきた「収入」というのは、商売でいえば「売上」のようなものです。どれだけたくさん売上があっても、売上以上に経費がかかっていたら赤字の可能性もあります。所得税は「儲け」に対して課されますから、儲けがいくらか計算するために「経費」を引く必要があるのです。
しかし、ここで1つ問題があります。例えば、会社員のカバンを考えてみましょう。確かにカバン自体は仕事に必要かもしれません。少なくとも紙袋を使うよりはちゃんとしたカバンがあった方がいいに決まっています。しかし、ご存知の通り、カバンにはアクセサリー的要素の強いものもあり、値段も100万円以上するようなものまであります。カバン以外にも、スーツや腕時計、靴などにも同じことがいえるでしょう。
そのため、これらを無条件に経費として認めると、「今年は儲かったから、節税のためにブランド物の腕時計でも買うか」ということになりかねません。これでは国の税収が安定しないばかりか、税法の基本理念でもある「課税の公平」の観点からも問題が生じてしまいます。そこで、所得税法では収入をその内容により10種類に分類し、その区分に応じて控除の対象となる経費の範囲を詳細に定めているのです。
今回は超入門なので詳細は割愛しますが、控除できる経費があれば収入から控除して所得を計算します。
葵さんの収入で残っているのは、給料と退職金ですが、給料は、自営業者のように領収証を集めて経費を計算することが認められていません。その代わりに、年収に応じて自動的に控除額が決まる「給与所得控除」という制度が採用されています。
給与の収入金額 | 給与所得控除額 |
1,625,000円以下 | (収入金額が上限)65万円 |
1,625,000円超 ~ 180万円以下 | 収入金額×40% |
180万円超 ~ 360万円以下 | 収入金額×30% + 18万円 |
360万円超 ~ 660万円以下 | 収入金額×20% + 54万円 |
660万円超 ~ 1,000万円以下 | 収入金額×10% + 120万円 |
1,000万円超 | 220万円 |
葵さんの年収は、前の勤務先からの給与150万円と、自分で設立した会社からの給与350万円の合計500万円ですから、上記の表に当てはめて500万円×20%+54万円=154万円が控除額です。従って、500万円-154万円=346万円が、この年の葵さんの給与所得になります。
次に退職金ですが、一時金で受け取る退職金については、勤続年数に応じて控除額が決まる退職所得控除額を控除することになっており、勤続年数が20年までは1年当たり40万円(最低80万円)、21年目以降は1年につき70万円を控除することができます。葵さんの勤続年数ですが仮に12年としておきます。すると退職所得控除額は40万円×12年で480万円となり、これを退職金800万円から差し引くと残りは320万円です。退職所得は、さらにこの残額を2分の1にすることになっていますので、退職所得は320万円×1/2=160万円となります。
収入では給与より多いのに所得にすると給与の半分以下になってしましました。これは退職金が長年の勤務に報いるためのものであることと、定年退職者などについては老後の生活基盤になることから、税負担を軽減しようとする趣旨であると言われています。このように所得を分類することにより、所得の計算上でも税負担の調整ができるようになっているのです。
【葵さんの今年の収入のまとめ】
親からの贈与:非課税のため計算から除外
利子所得:源泉分離課税のため計算から除外
配当所得:確定申告不要を選択したため計算から除外
給与所得:346万円
退職所得:160万円
所得控除を差し引く
所得金額の計算が終わったら、所得控除額を計算します。所得控除とは個々人の税金を負担する能力に応じて所得を調整する趣旨等で行われます。例えば、同じ600万円の給与をもらっているAさんとBさんの2人がいるとします。Aさんは独身ですが、Bさんは育ち盛りの子供が5人いるケースを想定してみてください。一般的には子供が5人いるケースの方が、生活に必要なコストは多いはずです。
税制は基本的な生活を脅かすものであってはなりませんから、個人の事情を所得控除という制度で考慮することになっているのです。
所得控除の名称 | 控除の内容 | 控除額等 |
雑損控除 | 災害等により損失が生じた場合の控除 | - |
医療費控除 | 医療費の支払が一定の基準を超えた場合の控除 | 最高200万円 |
社会保険料控除 | 社会保険料を支払った場合の控除 | - |
小規模企業共済等掛金控除 | 一定の共済等の掛金を支払った場合の控除 | - |
生命保険料控除 | 生命保険料を支払った場合の控除 | 最高12万円 |
地震保険料控除 | 地震保険料を支払った場合の控除 | 最高5万円 |
寄付金控除 | 一定の寄付をした場合の控除 | - |
障害者控除 | 本人や扶養親族等が障害者の場合の控除 | 27万円・40万円 |
寡婦・寡夫控除 | 寡婦や寡夫の場合の控除 | 27万円・35万円 |
勤労学生控除 | 本人が一定の学生である場合の控除 | 27万円 |
配偶者控除 | 控除対象配偶者がいる場合の控除 | 38万円 |
配偶者特別控除 | 配偶者の合計所得金額に応ずる控除 | 38万円以下 |
扶養控除 | 控除対象扶養親族がいる場合の控除 | 1人38万円 |
基礎控除 | すべての納税者に適用 | 38万円 |
所得控除のうち基礎控除だけは必ず使えます。その他の控除はケース・バイ・ケースですが、葵さんについては所得控除の合計が120万円だったものとします。
これを所得金額から差し引きますが、給与所得と退職所得のどちらから控除するのでしょうか?実はこの控除の順番も所得税法で決まっていますが、かなり専門的になるためとくに気にしなくても大丈夫です。今回は給与から先に控除します。
すると、所得控除の後で残っているのは、給与所得346万円-所得控除120万円=226万円、退職所得は変わらずで160万円のままです。ここで残っている金額を課税所得といいます。
所得税を計算する
課税所得に税率を掛けて所得税を計算します。所得税の基本税率は超過累進税率といって、課税所得が増加するにつれて適用する税率が高くなるものが使われます。もっとも、所得の中にはこの超過累進税率を使わないものもありますが、今年の葵さんの所得はどちらも超過累進税率を使って計算することができます。
課税所得金額(1,000円未満切捨て) | 税率 | 控除額 | |
195万円 以下 | 5% | 0円 | |
195万円 超 | 330万円 以下 | 10% | 97,500円 |
330万円 超 | 695万円 以下 | 20% | 427,500円 |
695万円 超 | 900万円 以下 | 23% | 636,000円 |
900万円 超 | 1,800万円 以下 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円 超 | 4,000万円 以下 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円 超 | 45% | 4,796,000円 |
所得税は、上の速算表を使って「課税所得×税率-控除額」で計算します。葵さんの所得を上記の速算表に当てはめると、それぞれ次の通りとなります。
給与所得:346万円×20%-427,500円=264,500円
退職所得:160万円×10%-97,500円=62,500円
従って、この年の葵さんの所得税は264,500円+62,500円=327,000円となります。
これで1年間の所得税の計算が終了しました。あとはこの内容を申告書に記載して、期日までに提出と納税を済ませれば、所得税に関するすべての手続きが完了したことになります。
さて、所得税の超入門編はこれで終了です。いかがだったでしょうか?
個人の所得のパターンは多種多様ですから、簡単に説明のできない部分も多いのですが、所得税計算の基本的な流れはこの超入門編で押さえられるでしょう。
また、機会があれば所得税の初級編でもう少し踏み込んだ説明もしてみたいと思います。