今回の記事ですが、内容がやや複雑になってしまいましたので、結論を先に書きます!
- 赤字の場合、前期の法人税を取り戻せます(もちろん前期に法人税を納めている場合に限ります)
- 上記1の処理は少し手間がかかるので無視される場合があります。
- 来期が大幅な黒字と確定していれば別ですが、普通は法人税の取り戻しを行った方が有利です。
結論:上記1を行っていない場合は、少し手抜きされている可能性がありますのでご注意ください。
法人税、住民税、事業税の3つは原則として会社の利益に対して課税される税金なので、赤字の場合にはかかりません。しかし、前期は500万円赤字で、当期が400万円の黒字となった場合、税金はどうなると思いますか?
原則的なルールでは、1期ごとに税金計算を行うことになっているため、500万円の赤字は無視されて、400万円の黒字にはまるまる法人税など約90万円が課されます。
しかし、これはほとんどの人が違和感を覚えると思います。2期を通して考えれば、この会社はまるで儲かっていないのに90万円も税金を取られるのはおかしい!というわけです。
そこで、法人税法では 青色申告 を行う会社の赤字を翌年以降10年間繰り越して、黒字から控除することを認めています。これを青色欠損金の繰越控除といいます。
では、前期は400万円の黒字で、当期が500万円の赤字になった場合はどうでしょうか?
前期に税金を申告するときは、当期に赤字になるかどうか分かりませんから、とりあえず90万円の法人税等を納税することになります。そして当期になって500万円の赤字が生じたときに、この赤字を前期の黒字400万円と相殺することができるのです。所
相殺すれば前期の所得はゼロになりますので、すでに納付した前期の税金を取り戻すことができます。これを青色欠損金の繰戻還付といいます。ただし、繰戻還付が使えるのは原則として資本金1億円以下の 中小企業者等 に限られます。
さて、この繰戻還付ですが、実は法人税では適用を受けられますが、住民税と事業税(以下「地方税」といいます)には制度そのものがありません。従って、前期に納付した税金90万円のうち、取り戻すことができるのは法人税の部分(約60万円)だけです。
さらに、法人税で繰戻還付の適用を受けると、赤字の処理が「法人税」と「地方税」で異なってしまうのです。
上記の例でいうと、法人税では赤字500万円のうち400万円を繰戻還付に使ったので、繰越控除の対象になるのは残額の100万円のみとなりますが、地方税では500万円全額が繰越控除の対象になります。
しかも、法人の住民税は「法人税」に税率を乗じて計算するので、繰戻還付を受けた法人税額を翌期以降の法人税から控除して住民税を計算するという面倒な処理も行わなければなりません。
当然ながら、住民税の計算を正しく行うために、繰戻し還付を受けた法人税の控除明細書を作成して、申告書に添付しなければなりません。
このような事情から、納税者にとって有利となる場合であっても、繰戻し還付を行っていない申告書を見かけることがあります。
もしも、前期が黒字で法人税を納めており、かつ、当期に赤字が生じてしまったときには、繰戻し還付の適用をちゃんと受けているか、少し気にしてみても良いかもしれません。