2.遺言とは
遺言とは、遺言者の死亡後に一定の効果を生じさせることを目的として行う意思表示のことをいう。
1.遺言作成者の条件
遺言が有効に成立するためには、次の条件をすべて満たさなければならない。
- 遺言作成者が満15歳以上であること
- 遺言作成者に意思能力(正常な判断能力)があること
2.遺言の種類と特徴
遺言は複数に分けて作成することができ、遺産の一部について遺言を作成することも可能である。
また、遺言は大きく普通方式遺言と特別方式遺言に分けられるが、現実的には普通方式遺言を理解しておけば十分であり、その特徴は次の表のとおりとなっている。
自筆証書遺言 |
公正証書遺言 |
秘密証書遺言 |
|
作成方法 | 遺言者が遺言の全文、日付、氏名を 自書 し捺印する 捺印は実印である必要はなく、認印・拇印でも可 ※補足2参照 |
公証人が遺言者の口述を筆記し、それを遺言者・証人に読み聞かせ、内容を確認後に各自が署名捺印する | 遺言者が遺言を作成して署名捺印し、その証書を封じて、封印をする その後、公証人・証人の前で自分の遺言である旨を申述し、封書に各自署名捺印する |
長所 | 作成が容易 作成の事実・内容を秘密にできる |
原本は公証役場に保管され、改ざん・紛失の危険性は少ない | 改ざん、紛失の可能性がない 内容を秘密にできる |
短所 | 改ざん、紛失の可能性がある 自書できない者は、作成不可能 ※補足2参照 |
内容を秘密にできない | - |
場所 | 自由 | 公証(人)役場 | 公証(人)役場 |
証人 | 不要 | 2人以上 | 2人以上 |
検認 | 要 ※補足2参照 | 不要 | 要 |
1.複数の者が同一の書面で作成した遺言(共同遺言)2.日付が特定できない遺言(平成20年1月吉日⇒無効、平成20年元旦⇒有効)3.名前のない遺言(氏名の記載はないが筆跡で本人の自筆と立証⇒無効、芸名・通称等の記載があり本人のものと認識できる⇒有効)
4.捺印のない遺言(加除訂正箇所にも捺印が必要であるが、加除訂正箇所の捺印がない場合には、その加除訂正のみが無効となり、遺言全体が無効とはならない)
改正後の民法第968条
1.自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。2.前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第九百九十七条第一項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。3.自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。
法務局における遺言書の保管等に関する法律案
(遺言書保管所)
第二条 遺言書の保管に関する事務は、法務大臣の指定する法務局が、遺言書保管所としてつかさどる。(遺言書の検認の適用除外)
第十一条 民法第千四条第一項(遺言書の検認)の規定は、遺言書保管所に保管されている遺言書については、適用しない。
3.遺言の撤回
遺言はいつでも自由に撤回することができる。遺言撤回の方法は、原則として新しく作成した遺言に以前の遺言を撤回する旨を記述して行うが、遺言を撤回するために作成する遺言は、同じ種類である必要はない。
例:公正証書遺言を自筆証書遺言で撤回 ⇒ 可
[補足:撤回とみなされる行為]
複数の遺言を作成した場合において、それらの内容が抵触するときは、先に作成された遺言の抵触する部分だけが撤回されたものとみなされ、抵触していない部分はなお有効となる。
また、遺言者が遺言を破棄した場合には、撤回されたものとみなされるが、公正証書遺言は原本が公証役場に保管されているので、原則として遺言者に渡される遺言を破棄しても撤回したことにならない。
4.検認と開封
遺言の発見者や保管者は、相続開始後に遅滞なく家庭裁判所で遺言の検認を受けなければならない。ただし、公正証書遺言は、公証役場に原本が保管されているため検認は不要となっている。
また、検認は遺言の改変を防止し保存を確実にするために行われるものであって、遺言の有効・無効を判断するものではない。そのため、検認を受けていない遺言であっても、それだけで無効とはならない。
なお、封印のある遺言については、相続人等の立会いの上で家庭裁判所において開封しなければならない。
3.遺留分
遺留分とは、一定の相続人に与えられた相続財産の最低取得割合で、贈与や遺贈によっても侵害することのできない権利をいう。
1.遺留分権利者
遺留分が認められるのは、第3順位の相続人(その代襲相続人を含む)以外の相続人(配偶者、子またはその代襲相続人、直系尊属)である。
2.遺留分の割合
- 遺留分権利者が直系尊属のみの場合:遺留分算定の基礎財産の1/3
- 上記以外の場合:遺留分算定の基礎財産の1/2 ⇒ 原則として法定相続分の半分となる。
3.遺留分減殺請求
例えば、「友人Aに全財産を遺贈する」という内容の遺留分を侵害している遺言があったとしても、その遺言が直ちに無効になるわけではない。
しかし、遺留分を侵害された遺留分権利者は、自己の遺留分の返還を友人Aに請求することで、遺留分に相当する相続財産を取り戻すことができる。この請求のことを遺留分減殺請求という。
4.遺留分減殺請求権の消滅
遺留分減殺請求権は、相続の開始と減殺すべき遺贈・贈与があったことを知った時から1年間で消滅する。また、相続の開始・減殺すべき遺贈・贈与があったことを知らなくても10年間で消滅する。
[参考:遺留分の放棄]
遺留分権利者は遺留分を放棄することができる。ただし、遺留分を放棄した者がいても他の者の遺留分が増加することはない。また、遺留分を相続開始前に放棄する場合には、家庭裁判所の許可が必要である。一方、相続の放棄は相続開始前に行うことはできない。
続く