休眠会社とは、一般的には「活動実態がない会社」を指して使用される言葉です。
一時的にお休みするので休眠会社にするというケースもありますが、完全に廃業するけれど会社の解散・清算という正規の手続きに手間とコストがかかるため、面倒だからやむを得ず休眠会社にしたというケースもあります。

今回は、この休眠会社について税務と登記の側面から考えてみたいと思います。

税務

1.法人税

税法には休眠会社という規定そのものが存在しません。従って、原則的な手続き・処理は通常の会社となんら変わらないというのが建前です。

しかし、実際に休眠状態になると「ほったらかし」になるのが普通で、申告も納税も行わないことが多いのではないでしょうか。この場合に気になるのが、それで大丈夫なのか?何かデメリットがないのか?ということです。

厳密にいえば法的には完全にアウトです。法人税法には下記のような規定がありますので、無申告というのは懲役刑もあり得る行為なんです。

第百六十条 正当な理由がなくて確定申告書をその提出期限までに提出しなかつた場合には、法人の代表者、代理人、使用人その他の従業者でその違反行為をした者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。ただし、情状により、その刑を免除することができる。

 

しかし、実際のところ、休眠会社の無申告で刑罰が科されたなどという話は聞いたことがありません。

通常の会社の無申告には、加算税などのペナルティーで対処されることがほとんどですが、この加算税は「納税額」をベースに算定されますから、休眠会社のように「活動実態がない=納税額もゼロ」の場合、ペナルティーもゼロになるわけで、事実上デメリットはないと考えてもよさそうです。

ただし、無申告状態が続くので「繰越欠損金が使えなくなること」「青色申告の承認が取り消されること」は考慮する必要があります。これらが問題にならないのであれば、その他は特に気になるデメリットはありません。

(注)休眠会社に預金残高がある場合、活動実態がなくても利息収入が生じているケースがあります。現在は低金利なので大丈夫でしょうが、利息だけで法人税が生じるケースもまれにあるので注意が必要です。

2.地方税

法人には赤字でも課税される均等割という税があります(法人住民税の一部です)。休眠会社で利益がない場合、法人税はゼロになりますが、均等割はどうなるのでしょうか?

均等割は「道府県(市町村)内に事務所又は事業所を有する法人、道府県(市町村)内に寮・宿泊所・クラブその他これらに類する施設を有する法人で一定のもの」に課せられます(地方税法第24条、294条)。

従って、休眠状態でも事務所や事業所等があれば課税されますし、そういった施設がなにもなければ課税されることはありません。とは言え、会社として存在する以上、少なくとも本店があるのが前提なので、「うちは休眠するので活動拠点は一切なくなります」という届出をしないと、毎年課税処理された申告書と納付書が送り付けられてしまいます。

そこで、次に休眠するための手続きについて書きます。

3.手続き

冒頭に述べた通り、税法には「休眠」という規定がありませんので、正式な書式などは用意されていません。異動届出書に「休眠する旨、休眠の開始年月日」などを記載して税務署、都道府県税事務所、市役所へ提出すれば問題ないでしょう。

なお、地方税の様式で「均等割免除申請書」というものがありますが、これは公益法人やNPO法人などの一定の法人で、知事に均等割の免除を申請する際に使用する様式なので間違って使用しないようにしましょう(都税条例第117条の2、206条)。

登記

税法と違って会社法第472条には休眠会社の規定があります。
「休眠会社(株式会社であって、当該株式会社に関する登記が最後にあった日から十二年を経過したものをいう。)-以下省略-」
つまり、株式会社以外の会社(有限会社、合同会社など)は会社法上の休眠会社には該当しないことになります。

なぜ、株式会社にだけ休眠会社の規定があるのかといいますと、株式会社の取締役の任期が最大10年で、本来であれば任期満了により必ず登記が必要になります(株式会社以外の会社は役員の任期がありません)。

そこで12年も登記を行っていない株式会社は実体のない可能性等があり、これを放置すると登記の信頼性等を損なう危険性があることから「休眠会社の整理作業」の対象となってしまうのです。

この整理作業、平成26年からは毎年行われており、会社法上の休眠会社に該当する株式会社をピックアップし、法務大臣が官報で公告を行い、その会社へ「公告が行われた旨の通知」が発送されます(なお、この通知が届かなくても言い逃れは認められません)。

そして、公告の日から2ヵ月以内に「役員変更の登記」または「事業を廃止していない旨の届出」のいずれかが行われないときは、解散したものとみなされ登記官の職権で解散の登記が実行されます。
※「事業を廃止していない旨の届出」を出すだけの場合、翌年も休眠会社の整理作業の対象になります。

もっとも、この解散の登記から3年以内であれば一定の手続きで元の状態に戻すことができるのですが、この整理作業の対象になる会社は、役員変更の登記(同じ人が続ける場合も必要です)の期限を過ぎていることになりますから、原則として、整理作業の対象になった時点で過料(ペナルティー)を請求される可能性があります(概ね2~10万円くらい)。

ちなみに、どうせ廃業するつもりだったのでラッキーとばかりに解散登記されても放置しておくと、なんと過料の請求が来ないとの噂も耳にします(死んだ会社から金は取らないとか…)。

が、この登記 懈怠 の過料は法律上最高100万円まで請求可能なので、みなし解散の会社をずっと放置しておくと、そのうち驚くような金額の過料を請求されるかもしれません(過料の請求は登記上の代表取締役宛に発送されるそうです)。

ということですので、株式会社は休眠するにしても登記の問題が残りますが、株式会社以外の有限会社や合同会社などは、税務署等へ休眠の届出をしておけば、あとは基本放置していても特に問題はないということになります。