4.PERの妥当な水準

PERが割安なのか割高なのかを判断するためには、何らかの基準が必要です。私の場合はPER17~23倍(業種や成長性により異なります)なら妥当な株価水準と考えることにしています。ここでいう妥当とは、その株価で売買できる可能性が高いという意味です。

これは非常に大事なポイントですから、すこし詳しく説明します。
株価が上がるためには、もっと高い値段でも買いたいと思い人が増えなければなりません。逆に(「同時に」でもいいです)その値段で売りたいという人が減ってもOKです。

このような状態になるためには何らかの理由が必要なのですが、投資である以上「どんなに高くてもいいから買いたい」と考える人はまずいないはずです。
あまりにも株価が高くなりすぎると誰も買い手がいなくなり、株価は下落を始めます。これがいわゆる天井というヤツです。逆に株価が下がりすぎれば、そのうち売り手がいなくなり株価は上昇を始めるはずです。こちらは底という状態です。

妥当な株価というのは、その株の居心地のいい水準とでもいえばいいのでしょうか、買い手も売り手も豊富に出現し得る状態と思ってください。これが日本株の場合、おおむねPER17~23倍といわれているのです。
ここで重要なのは、多くの人がそのように思っているという事実であって、(統計学的にはともかく)科学的な根拠は不要です。妥当なPERの水準で買い手が現れる確率が高いことが大切なのです。

5.低PERの設定

さて、基準となる株価水準のPERが決まりました。この水準は買った株式を売るときにも使いますから、よく覚えておいてください。 次に買うときの基準となるPERを設定します。私の場合はPER12倍以下というのが一応の基本ラインです。
この基準に異論、反論のある方もいるでしょうが、何倍が割安であるかの答えを出すことが科学的にできないのですから、考えるだけ時間の無駄です。ここでは割安PERというハードルを下げることによって、株価の値下がりする可能性を引き下げられるという点に着目します。

つまり、PER17倍を適正株価の基準として、12倍以下を割安と判断するのであれば、業績が悪化しなければかなりの確率で値上がり益を得られると思います。ただし、基準を厳しくした分だけ株を購入できるチャンスは減りますから、要はバランスの問題と捉えてください。ただし、PERが低すぎる場合、何か異常事態が発生しているのではないか必ず疑いましょう。

通常の生活でもそうですが、安かろう悪かろうというのは株式投資にも当てはまります。アウトレットで型落ち商品が半値で売られるのならお買い得かもしれませんが、路上で高級ブランドの新品バッグが半値で売っていたら普通は何か怪しいと感じます。それと同じことです。

6.にせPER銘柄の除外

割安株とは正当な理由もないのにPERが低い株をいいます。PER12倍以下というのは投資基準としては非常に低いので、低PERだけを頼りに銘柄の絞り込みを行うと、にせ割安株がたくさん引っ掛かります。これらのにせ割安株は、当然ながらちゃんと理由があってPER12倍以下になっているので、その理由を突き止め、かつ、その銘柄を投資対象から除外することができなければ、PERによる投資法も宝の持ち腐れ。怖くて使うことはできません。

ここでは、その「割安ではないのに割安に見える銘柄判別法」を考えてみましょう。
PERの計算式は非常にシンプルで、計算要素は株価と1株利益の2つしかありませんでした。このうち株価は市場で与えられる数値ですから、1株利益が異常でないかどうかを検証すればいいのです。

7.異常な1株利益

現実に遭遇しやすい4つのケースを挙げます。

1. 臨時の収入があり、そのために1株利益が増加した

臨時でも何でも収入があることはいいことなのですが、臨時ということは今年だけ1株利益が高くなっている=PERが低くなっている可能性があります。臨時の収入とは子会社株式の売却とか遊休不動産の売却などです。逆に臨時の損失が生じたため今年だけ1株利益が低くなっている状態もあります。この場合は、PERが高くなりますが実際は割安だったなんてことになります。

2.税金を払っていない

過去10年間に赤字を出した会社は、過去の赤字と当期の黒字を相殺して税金を計算することができます。
本来なら利益の30%相当の税金を払わなければいけませんから、税引き前の1株利益100円なら税引き後の1株利益は70円程度になります。
しかし、過去に100円の赤字を出した会社の場合は税金を払わなくていいので、税引き後の1株利益も100円になるのです。
ところが、翌期には相殺できる赤字が残っていませんので、当期並みの利益を維持しても1株利益は自動的に下がってしまうのです。

3.増資を行って発行済株式総数が増えた

1株利益は「当期純利益÷その決算期末の発行済株式総数」で計算されます。仮に当期と翌期の利益が同額でも、発行済株式総数が増えると1株利益は低下するわけです。

当期利益÷当期末発行済株式総数=1株利益
100万円÷100株=1万円

↓増資により60株を追加発行
翌期利益÷翌期末発行済株式総数=1株利益
100万円÷160株=6,250円

ところが発行済株式総数が増えても過去の1株利益は修正されませんから、そのままPERを計算すると判断ミスにつながります。

4.株式分割を行った

株式分割 により発行済株式総数が増加するので、上記3と同じ理屈で1株利益は下がります。この場合は株価も一緒に下がりますから、低PER状態になりやすいので特に注意が必要です。

8.実績PERと予想PER

PERを計算する場合、もちろん株価は現時点の株価を使います。ところが1株利益は毎日公表されるわけではありません。前期の確定数値を使うか当期の予想数値を使うのですが、投資対象をスクリーニングする(絞り込む)段階では、前期の確定数値を使っています。

本来、株価は将来の業績を織り込むように動きますから、予想PERを使う方が理にかなっているのですが、ヤフーファイナンスなどで低PER株式ランキングなどを使うと自動的に前期確定1株利益になってしまうのです。

ただし、前期の確定数値を使うと、どうしてもV字回復型の銘柄が漏れやすくなります。私はこれを避けるために年に2~3回、四季報や日経会社情報などを熟読します。このあたりの作業は、もはや好きでないとちょっとできませんので、普通の方はそこまでやらなくてもいいと思います。

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