前回の相続分1で基本となる法定相続分の解説をした。今回は特別な事情がある場合の法定相続分の調整と遺贈・死因贈与についての解説を行う。ただし、特別受益と寄与分については、実務的にも頻出事項ではないし、取り扱いもデリケートな部分があるため、こんな考え方もあるんだ・・・程度の理解で軽く読んでもらえれば十分だと思う。

2.特別受益と寄与分

1.特別受益とくべつじゅえき

被相続人から、次のような事情で財産を取得した場合、その取得した財産を特別受益という。特別受益を受けた者は、他の相続人より有利になってしまい、公平性を欠くことになるため、民法ではこれを遺産の先行取得と考えて、特別受益者の相続分を減額することにしている。この減額の取り扱いは「もどし」と呼ばれている。

  1. 遺言によって財産を取得した場合
  2. 結婚や養子縁組のために贈与を受けた場合
  3. その他生計の資本として贈与を受けた場合

計算自体はそれほど難しくない。例えば、相続人が子Aと子Bの2人、遺産が1,000万円のケースで考えてみよう。Aは20年前に自宅を購入する際に、購入資金の一部として現金400万円の贈与を受けているものとする。

このとき、この現金400万円が特別受益に該当することになるので、遺産の1,000万円に特別受益の400万円を加算して全体を1,400万円分と仮定する。
その後、法定相続分に基づいてAとBの取り分を計算する。このケースの法定相続分はA・Bともに2分の1なので、700万円分がそれぞれ相続できる遺産額となる。

そして、Aについては、先に特別受益を受けているので700万円から特別受益の400万円を控除した300万円分(1,000万円の10分の3)が相続分となり、Bは700万円分(同10分の7)が相続分となる。

なお、今回は話を簡単にするために特別受益の金額について評価替えをしなかったが、例えば、これが昭和の話であれば20年前の400万円と今の400万円が同じ価値とは限らない。
また、特別受益が現金ではなく、不動産や株式等であればそもそも価値が変動するので、相続時の価値で持ち戻しの計算を行わなければならない。

2.寄与分きよぶん

相続人の中に遺産の維持や増加に貢献した者がいる場合、または、被相続人の療養看護に尽くした者がいる場合などに、その者に遺産の一部を優先的に相続させる制度を寄与分という。

法定相続人が子Aと子Bの2人、遺産が1,000万円のケースにおいて、Aに寄与分200万円が認められたとする。この場合、まず先にAが寄与分として200万円分の相続分を得る。その後、残った800万円分を法定相続分通りに2分の1ずつA・Bで分割するため、結果としてAの相続分は600万円分(1,000万円の5分の3)、Bの相続分は400万円分(同5分の2)になる。

[コラム:親の介護と寄与分]
親の介護等を子供が行うケースは決してめずらしいものではない。ただし、介護等の対象となる親は実親の場合もあれば、いわゆる義理の親(配偶者の実親)の場合もあるだろう。

民法でも親の療養看護に尽くした者には、その貢献度に応じて寄与分を認めているが、残念ながら、これまでの寄与分は「相続人」にしか認められていなかった。そのために夫の両親の介護等をどんなに一生懸命に妻が行っても、その妻の貢献度が直接相続分として認定されることはないのである。

もっとも、妻の介護等を夫の補助行為または代行行為として、夫の寄与分として認定した例などは存在するが、これも夫が生きていればの話である。たとえば、夫が相続開始以前に死亡している場合、子供がいれば代襲相続となるが、子供がいなければ妻がどれほど義父母の介護に貢献していようと、寄与分は認められていなかったのである。

この取り扱いは以前より問題視されていたのであるが、ようやく平成30年の通常国会で改正されることとなった。今後は相続人でなくとも「被相続人の親族」であれば貢献度に応じた寄与分を請求できることになる。

3.遺贈いぞう死因贈与しいんぞうよ

1.遺贈

遺言によって、自分の死後に財産を与えることを遺贈という。相続により財産を取得することができるのは相続人に限定されているが、遺贈は相続人だけではなく、友人や法人などの第三者にも財産を遺すことができる。

2.遺贈者いぞうしゃ受遺者じゅいしゃ

遺贈を行う人を遺贈者、遺贈により財産を取得する人のことを受遺者という。
相続人が遺贈により財産を取得した場合でも、遺贈により取得した財産については受遺者となり、遺贈のルールが適用されることになる。

3.遺贈の方法

1.包括遺贈

相続財産全体に対する割合を指定して遺贈する方法を包括遺贈という。たとえば、「遺産の3割を鈴木一郎に遺贈する」という書き方が包括遺贈となる。
なお、「遺産の3割を長男の田中太郎に相続させる」と記載して遺言を作成すると、原則として相続分の指定(指定相続分)となる。

2.特定遺贈

個別の財産を特定して遺贈する方法を特定遺贈という。たとえば、「渋谷区渋谷××丁目○○番△△号の土地を鈴木二郎に遺贈する」という書き方が特定遺贈になる。
なお、「渋谷区渋谷××丁目○○番△△号の土地は長男の田中太郎に相続させる」と記載して遺言を作成すると、原則として分割方法の指定となる。

4.相続と遺贈の差異

遺贈には代襲相続のような権利の移転は発生しない。つまり、遺贈者の死亡時に受遺者が生存していなければ、原則として、その遺贈は無効となる。

5.遺贈の承認と放棄

1.包括遺贈の承認・放棄の手続き

相続の承認・放棄の取り扱いと同様である。

2.特定遺贈の承認・放棄の手続き

相続開始後にいつでも行うことができる。また、民法には特定遺贈の承認・放棄に関する手続きの規定そのものがないので、特に家庭裁判所で手続きする必要はなく、期限も特に定められていない。
ただし、相続人その他の利害関係者は期間を定めて、承認か放棄かの催告をすることができる。

6.死因贈与しいんぞうよ

贈与者の死亡を条件とする贈与を死因贈与という。経済的な効果は遺贈と変わらないが、法律的には遺贈が 単独行為 であり、贈与は契約である点に違いがある。

[解説]
遺贈が受遺者の意思を確認しないで、遺贈者の一方的な意思だけで遺言を作成できるのに対し、贈与は契約であるため贈与者と受贈者じゅぞうしゃの合意が必要となる。
つまり、「贈与する」という意思と「贈与を受ける」という意思が合致して贈与契約が成立しているため、死因贈与には承認や放棄という考え方は存在しない。

相続のはなし 第3章-遺産分割・遺言と遺留分1 へ続く