投資の理由を明確にする

私の株式投資の目的は老後資金の基盤となるだけの資金を貯めることです。具体的な目標金額は3,000万円と設定しました。詳細な計算は割愛しますが、「老後の生活資金の必要額」から「公的年金の予想支給額」を差し引いて、不足額を補うために必要と思われる金額が3,000万円だったのです。

そして、3,000万円の資金を貯めるためには、当初の運用資金を500万円、毎月の投資額を2万円、運用期間を20年として計算すると年率平均7.1%のリターンが必要なことが分かりました。株式投資のリターンとしてはべらぼうに高い数値ではありませんが、日本の預貯金金利では絶対に不可能です。

しかし、株式投資ならばこのリターンを達成できる可能性があります。もっとも、実際には投資資金のうち30%を上限として、外国株式のような比較的リスク・リターンの高い投資も行なっています。

私の場合は、このような目的に基づいて投資計画を立てています。そのため、必要以上にハイリスク・ハイリターンの投資は不要ですし、相場環境の悪いときに投資をする必要もありません。逆にそのような投資をできる限り排除しなければならないのです。

そのため私の投資スタイルは徹底的に安全性を重視しています。そして、株式投資の目的が長期の資産形成であるならば、投資の安全性をもっとも重視すべきなのです。

私は株式投資が簡単で、誰でも儲かるなどと無責任なことは言いません。最近の仮想通貨のように異常な上昇相場が起こると、大勝ちした個人投資家がマスコミ等で取り上げられたりします。過去には株式投資でも億単位の資産を稼いだ個人投資家の方がテレビや雑誌などでもてはやされたこともありました。

こういったニュースに触発されて、株式投資や仮想通貨投資を始めた人もいるのではないかと思いますが、ああいう人たちは多数の個人投資家のうち、強運と努力と才能を合わせ持った人たちであることを忘れてはいけません。

しかし、株式投資は資産運用の強力なツールの1つです。債券投資や預貯金では年率7%以上なんて運用益は逆立ちしても得られません。このような魅力的なツールを、凡人でも有効に活用できる方法はないものかと考えることが必要なのです。

株式市場には様々な人が参戦していますから、株式投資の本も理屈も色々とありますが、才能も時間もない凡人向けの株式投資。これが私の基本スタンスです。

株式投資に必要な能力とは

自分が天才だと思っている人はともかく、凡人であることを自認している人は、まず株式投資がそんなに甘いものではないことを認識しましょう。
株式投資がアート(才能)であるかサイエンス(技術)であるかは、古くから議論されているテーマらしいのですが、どちらにしても一流になるのは才能のある人だけです。

もっとも、才能の比重が高いのは間違いなくアートの方でしょう。たとえモーツァルトに作曲やピアノのレッスンを受けても、モーツァルトになれないのと同じです。

一方、努力の比重が高く、がんばれば凡人でも何とかなりそうなのがサイエンスの分野です。しかし、かの有名なエジソンが言ったとされる「天才とは1%のひらめき(才能)と99%の汗(努力)である」という言葉からも分かる通り、99%の努力があっても1%の才能がない人は天才にはなれないのです。ましてや、努力もしない人には最初から無理な話です。

では、勝てる投資法とは何なのか。そんなものあるのか。という疑問がわきますが実はあります。いわゆる分散&長期投資です。この方法ですとかなりの確率で資産を増やすことができます。投資対象の債券割合を高めればほとんど負けることはなくなります。

ただし、この方法の弱点は期待リターンが年率数%程度にしかならない点です。資産を守るには適していますが、資産を増やす方法とはいえません。やはり、資産を増やすにはある程度の集中投資は避けられず、しかも日本国債のような利率の低いものは初めから対象外にしなければなりません。

これから説明する方法は個別株投資で、かつ、才能はほとんどいらないと思います。でも、努力は必要です。才能も努力もいらない簡単な投資法なんてものが存在するなら誰も働かなくなります。そんな幻想は早めに捨ててしまいましょう。

勝つための個別株投資法とは

才能のない凡人投資家が個別株投資で勝つための方法なんてありません。しかし、

  • 株式投資による資産運用は行いたい
  • 勝つための投資法は存在しない
  • 株式投資で損したくない

この3つの条件を同時に満たしたいわけです。

そのためには、発想を変える必要があります。すなわち、株式投資で勝つ方法を考えるのではなく、勝てそうな条件のときだけ株式投資を行うのです。

ずいぶんと気の長い話のように聞こえますか。でも確実に資産の増加には貢献するはずです。少なくとも生兵法で資産を減らすより、よほどマシでしょう。

「でも、株価は常に変動するから毎年10%程度の利益は狙えるチャンスがあるはず」と考えたあなた。それはストライクゾーンにボールが来るからヒットが打てるはずというのと同じ理屈です。なかなか打てない凡人だからこそ、確実に打てそうなボールが来るまでひたすら待つのです。

個人投資家は情報力、資金力、設備などほとんどの面において機関投資家に劣ります。その機関投資家だってそう簡単には株式投資で勝てないのです。個人投資家が勝率を上げるためには唯一勝っている時間を味方につけるしかありません(くどいようですが才能のない個人の場合です)。

幸い個人投資家には見逃し三振というルールが適用されません。プロのファンド・マネージャーがこんな気の長いことをやったら、まずクビです。
見逃し三振というルールが適用されないのですから、難しいボールに手を出す必要もありません。ひたすら絶好球が来るまで待って、待って、待ち続けるのです。

気長に待てばチャンスも訪れます。そのチャンスに全力でバットを振る?違います。それでも空振りする可能性があるのが凡人です。結果的にホームランになればラッキーですが、ここは慎重に当てていきましょう。これを繰り返せば打率も上がっていくはずです。

まず、この考え方を徹底させてください。株式市場は常に儲かるチャンスを提供してくれるわけではありません。儲かるチャンスのときだけ株式市場を活用するのです。これが凡人投資家の個別株投資法なのです。

割安株投資法 第1章:序論その3 へ続く