「相続のはなし」は大学の通信教育課程用に作成したテキストがベースになっています。ですので、まったくの初心者でも読むだけで理解できるように書いたつもりですが、なにぶんベースが教科書なので表現がだいぶ硬めです。やわからブログらしからぬ硬さですが、どうぞご容赦ください。
1.相続と相続人
相続とは、死亡した人の死亡時における資産や借金などを、一定の身内が承継することである。相続に関するルールは民法に定められているが、特に重要性が高いのは「相続するのは誰か」と「どのくらい財産を引き継ぐのか」の2点である。第1章ではこのうち「相続する人(=相続人)」を中心に解説を進めるが、これは相続全体の骨格となる部分で非常に重要性が高い論点である。
1.相続と相続財産
相続とは、死亡した人の死亡時における資産や借金などを、民法という法律の定めるルールに従って、一定の身内が引き継ぐことをいう。
[参考]
死亡した人から財産を引き継ぐケースとしては、相続の他に「遺言による遺贈」や「贈与者の死亡を条件とした贈与である死因贈与」がある。
これらは死者の財産を生者に移転させるという意味では相続と同様の効果を持つが、それぞれ別の原因であることに注意しなければならない。
例えば、「相続により財産を取得した人」という表現が出てきた場合、遺贈や死因贈与により財産を取得した人は含まれないと理解しなければならないのである。
2.相続財産
死亡した人が死亡時に有していた財産をいい、遺産と同じ意味である。なお、財産という言葉からは、現金や不動産のように経済的価値のあるものをイメージしがちであるが、借金のような義務も財産に含まれる。また、経済的価値のあるものを積極財産、借金のような義務を消極財産と表現する場合もある。
3.相続できない財産
次の財産は相続の対象とならない。
- 仏壇、墓地、系譜などの祭祀用財産(祭祀主宰者が承継する)
- 被相続人の一身に専属したもの(例:身元保証人の義務)
2.相続開始の原因
1.原則:死亡
相続は人( 自然人 )の死亡によって開始するのが原則である。ただし、例外的に行方不明になった人について、失踪宣告により死亡したものとみなされた場合にも相続が開始する。また、法人 は死亡することがないので、相続は発生しない。
2.例外:失踪宣告
失踪宣告とは、行方不明になった人の法律関係を整理するための法律上の手続きで、普通失踪と特別失踪の2種類がある。
- 普通失踪:行方不明となった人の家族などの請求により、家庭裁判所が失踪宣告を行う。失踪宣告がなされた人は、失踪後7年を経過した時点で死亡したものとみなされ相続が開始する。
- 特別失踪:戦地や沈没船などの危機的状況にいる人が、その危機的状況の終了した後1年間生死不明となった場合に、その人の家族などの請求により家庭裁判所が失踪宣告を行い、その人は危機的状況の終了した時点で死亡したものとみなされ相続が開始する。
[参考:同時死亡の推定]
飛行機事故のように、複数の人がほぼ同時刻に死亡した場合、その死亡時刻の前後が明確に分からないケースがある。このようなときには同時に死亡したものと推定して法律関係が処理され、これを同時死亡の推定と呼ぶ。同時死亡の推定が行われる場合、当事者間では相続が発生しない。
3.相続人の範囲と順位
1.相続人とは
被相続人 の相続財産を引き継ぐ資格のある人を相続人と呼ぶ。基本的には被相続人の 血族 が相続人となるが、配偶者 は被相続人と共同で財産を形成してきたことから、例外的に血のつながりはなくても優先的に相続人になることができる。
2.相続人の順位
上記1のように配偶者は相続財産の共同形成者であることから、常に相続人になる。一方、血族はその範囲が広いため、血のつながりの濃さによって次のように相続人になる順位が定められている。
第1順位 | 子(代襲相続人を含む) |
第2順位 | 直系尊属(多くの場合は親) |
第1順位の相続人が1人もいない場合に相続人になる。なお、親等の異なる者がいる場合には、親等の近い者が優先して相続人となる。 例:父母と祖父母がいる場合には、父母が相続人になり、祖父母は相続人にならない。 |
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第3順位 | 兄弟姉妹(代襲相続人を含む) |
第1順位・第2順位の相続人が1人もいない場合に相続人になる。 |
従って、相続人は「配偶者と血族」、「配偶者のみ(血族がいない場合等)」、「血族のみ(配偶者がいない場合等)」のいずれかになる。
3.実子と養子
実子と養子は第1順位の相続人として、まったく同様の取り扱いとなる。
[参考:特別養子]
養子には普通養子と特別養子があり、普通養子は実親と養親双方の相続人になることができる。しかし、特別養子は実親との親子関係が完全に終了するため、養親の相続人にしかなることができない。